研究代表者:田主英之
近年の国内外でのオープンサイエンスへの関心の高まりをうけ、大阪大学ではオープンサイエンスを推進している。2023 年 5 月に行われた G7 会合では共同声明にオープンサイエンスの推進が盛り込まれ、それらの動きをうけて、内閣府の閣議決定においても、オープンサイエンスの推進が大きく触れられた。そして、2024 年 2 月には内閣府の総合科学技術・イノベーション会議において、2025 年度から新たに公募を行う公的競争的研究費受給者に対し、研究成果としての学術論文、および根拠データの学術雑誌への掲載後、即時に機関リポジトリ等の情報基盤への掲載を義務づけることが決定された。
大阪大学はオープンサイエンスを推進するための情報基盤として、学内外で生み出されるデータを集約するデータ集約基盤 ONION (Osaka university Next-generation Infrastructure for Open research and open innovatioN) と学術成果を電子的に保管・公開するデータ公開基盤 OUKA (Osaka University Knowledge Archive) を整備している。本学に所属する研究者は自らの学術成果を OUKA にて公開することができる。OUKA 窓口では、メタデータの付与、必要に応じて著作権ポリシーの確認、DOI の登録を行い、リポジトリに登録をする。登録されたデータは、OUKA の検索機能を通して誰でも検索が可能である。また、検索システム (OAIster, Googleなど) からは目録データの収集が行われ、検索システムを通して登録されたデータを閲覧することも可能である (図1)。
図1 OUKAの概要図
OUKA では著者最終稿のオープンアクセス化(グリーンオープンアクセス)を進めており、ONION 上にある研究データが学術論文の根拠データとなりうることから、今後 ONION 上にある研究データを OUKA で公開する必要性が高まることが予見される。しかし、現在、ONION と OUKA は機能面で連携しておらず、研究者が公開用研究データを送付する場合、研究者が公開用研究データを ONION から一旦自らのローカル環境にダウンロードし、OUKA 窓口宛に公開申請とともに送付する必要がある (図2)。つまり、研究データライフサイクルの「保存から公開をする」という研究データ管理のプロセスが、ONION と OUKA が機能面で連携をしていないことで研究者にとって負担になっている問題がある。オープンアクセスやオープンデータに必要不可欠な学術論文や研究データの公開などの研究データ管理を実施するのは研究者自身であり、学術機関が研究者の研究データ管理の負担を軽減させることは重要である。
図2 OUKAへの従来の研究データ登録申請フロー
本研究では、研究者の負担を軽減し、新たな負担なく容易に、安全に ONION 上の研究データをシームレスに OUKA に公開申請できる一つのプロトタイプを提案し、開発、実装した。公開申請において「人対人」のやりとりを減らし、研究者のローカルストレージ環境に負担をかけないプロトタイプ実現するために、Nextcloud の独自プラグイン開発機能を使い、Nextcloud 向けの研究データ公開申請モジュールを開発した (図3)。まず、「人対人」のやりとりを減らすために、研究者が ONION 上から直接公開申請をするという機能を実装し、研究者が OUKA 窓口に問い合わせることなく、公開申請を行うことを可能にした。次に、研究者のローカルストレージ環境に負担をかけないために OUKA 窓口が直接公開用研究データを ONION からダウンロードする機能を実装し、研究者は公開用研究データを自らの環境を経由させることなく、OUKA 窓口に提供することが可能にした (図4)。
図3 Nextcloud 向け研究データ公開申請モジュール
図4 公開申請モジュール適用後の申請フロー
本研究の研究データ公開申請モジュールは大阪大学での新たな研究データエコシステム構築に向けた可能性を探る試験的なプロトタイプ実装という位置付けである。既存の設備、基盤や運用手法を最大限に活かしながら、研究者の視点から ONION に保存されている研究データを新たな負担なく OUKA 窓口に公開申請を行い、データの受け渡しを行う一つのモデルケースとして提案した。また、今後研究データ公開申請モジュールの試験的運用を通じて、大阪大学に所属する研究者のオープンサイエンスへの意識向上を促し、円滑な研究データの公開を可能にする研究データエコシステム実現に向けた技術課題を洗い出していくことを目的としている。
[学術論文誌]
⽥主 英之,⼭下 晃弘,細⾒ 岳⽣,並⽊ 悠太,甲斐 尚⼈,松浦 かんな,伊達 進, "研究データ管理を支える学内情報基盤連携の実現に向けて", 学術情報処理研究, 2023. [DOI: 10.24669/jacn.27.1_98]